「望ましい基準」と複本・貸出猶予問題

2017.04.25 Tuesday

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    〇「望ましい基準」と複本・貸出猶予問題


     
                                     2017.4.25 薬袋秀樹
     
    1.「望ましい基準」は活用されているのか?


     公共図書館職員による雑誌記事では、しばしば「望ましい基準」に関する要望や意見が述べ

    られていますが、基準案や基準を詳細に検討した記事や各図書館で実際に用いた報告はほとん

    ど見られません。「望ましい基準」に限らず、日本図書館協会「公立図書館の任務と目標」も

    同様のようです。
     これらの職員による雑誌記事では、図書館運営の原理として、何が考えられているのでしょ

    うか。「複本の提供」や「貸出の増加」を主張する記事では、「利用者の要求」と「知る権利

    の保障」が挙げられることが多いと思います。「望ましい基準」や「図書館法」は挙げられて

    いません。

     「望ましい基準」や「図書館法」が挙げられるのは“直営による運営”と“司書と司書館長

    の配置”を主張する場合が多いようです。 
     このように、「望ましい基準」だけでは、日本の公共図書館の現実、特に運営の原理は明ら

    かになりません。実際の“基準”として何が用いられているのかを研究する必要があります。

    複本・貸出猶予問題に関する議論はその役に立ちそうです。

     

    2.複本・貸出猶予問題はどのような問題なのか?

     

      この問題は、実は、公共図書館の本質に関わる問題です。この間、作家・出版関係者は、書

    店の販売点数、ベストセラーやエンターテイメント小説の販売点数を公共図書館の貸出冊数と

    比較してきました。また、新古書店の問題点も訴えてきました。これから、読書や資料の利用

    における民間サービス(書店)と公共サービス(図書館)の在り方や分担はどうあるべきかと

    いう課題が浮かび上がってきます。
      また、公貸権に関して、日本の公共図書館と欧米先進国の公共図書館のサービス水準の比較

    も行われています。どの国とどの指標を比較すべきか、国による制度の相違をどう受け止める

    べきか、数値をどう解釈すべきかという問題が生じています。
      日本における民間サービスと公共サービスの在り方と分担、日本の公共図書館と欧米先進国

    の公共図書館サービスの比較は、図書館政策を考える上で非常に重要ですが、これまで十分研

    究されてきませんでした。改めて考えてみると、このような研究は、もっと以前から、公共図

    書館研究の一環として行われるべきだったと思います。

     

    3.日本の公共図書館政策論には何が欠けているのか?

     

     1と2を組み合わせると、おぼろげながら、次のような構図が浮かび上がってきます。

      日本の公共図書館職員による文献では、図書館の管理形態(直営)、司書・司書館長の配置

    等の管理面に関しては、図書館法、社会教育法、地方教育行政法等の法律や「教育機関」の規

    定が援用される反面、日常のサービスに関しては、法律や基準よりも、「利用者の要求」と

    「知る権利の保障」が重視されており、運営の原理において一貫性と体系性に欠けています。 

    二つの種類の原理を、場合によって使い分けている印象があります。

      他方、政策目標の設定に必要な民間の書店・古書店との競合・分担関係や欧米先進国の公共

    図書館サービスの内容や水準との比較については十分な検討は行われていません。政策論にお

    ける位置づけが不足しています。

       日本の公共図書館は、管理・サービス面において、何を根拠に運営されているのか。また、

    欧米先進国と比較して、どのような水準にあり、日本の書店・古書店の事情を踏まえて、どの

    ような任務を担うべきなのか。これらを明らかにする必要があります。

      これらの問題意識に応える研究として、根本彰氏の優れた著書『情報基盤としての図書館』

    (勁草書房、2002)、『続・情報基盤としての図書館』(同、2004)の2点がありますが、こ

    れを踏まえて、さらに研究を発展させる必要があります。

     これらの問題を解明するには、「望ましい基準」と複本・貸出猶予問題を並行して研究する

    ことが必要であり、効果的であると考えています。