日本書籍出版協会文芸書小委員会「公共図書館での文芸書の取り扱いについてのお願い」(2016年11月)を読む

2017.09.24 Sunday

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    日本書籍出版協会文芸書小委員会「公共図書館での文芸書の取り扱い

                                       についてのお願い」(2016年11月)を読む

     

                                                     2017.12.27 薬袋秀樹

                      

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    〇はじめに

     

     2016年11月、日本書籍出版協会文芸書小委員会から全国の公立図書館の館長

    に「公共図書館での文芸書の取り扱いについてのお願い」(以下、「要望書」と

    いいます)(http://toshokanron.jugem.jp/?eid=129)が送付されました。こ

    の要望書について考えてみたいと思います。わかりやすい内容ですが、説明が必

    要な点もあると思いますので、要望書の趣旨を中心に、適宜、説明を補いながら、

    読んでいきます。合わせて、私の意見も述べたいと思います。

     なお、要望書の著者は「日本書籍出版協会文芸書小委員会」ですが、内容から、

    エンターテイメント系書籍の著作者(以下、「作家」といいます)、出版社、そ

    れを販売している書店の立場を代表するものと考えられます。

     

    〇作家、出版社、書店は何を問題にしているのでしょうか

     

     作家、出版社、書店が問題にしているのは、リクエスト上位の図書について、

    複本を多数購入する図書館と寄贈を呼びかける図書館があることです。 この「リ

    クエスト上位の図書」とはどんな図書でしょうか。

       著者は「文芸書小委員会」で、題名には「文芸書」とありますが、本文には

    「エンターテインメント系の書籍」と書かれています。文芸書にもいろいろな種

    類がありますが、純文学ではなく、推理小説をはじめとする娯楽性の高い書籍の

    ことです。純文学、学術書、専門書の問題ではありません。これが一番重要な点

    です。

       そこで、これ以後は、「エンターテイメント系小説」という用語を使いたいと

    思います。一部の図書館関係者は、この問題を「本・書籍一般」の問題として捉

    えがちですが、問題はあくまで「エンターテイメント系小説」です。

       もうひとつ、後の方で、文庫本が出てきますので、説明しておきます。文庫本

    は、一定の販売実績のあった、売上げの見込める単行本を多くの読者に購入して

    もらうために、判型を変えて低価格で販売しているもので、文芸出版社にとって

    は「ドル箱」です。これが、大量に貸出されて売上げが低下しているとすれば、

    出版社の収益の減少は大きいと思います。

     

    〇作家、出版社、書店はなぜ困っているのでしょうか

     

       エンターテイメント系小説の作家、出版社、書店は「本の販売によって生計を

    成り立たせて」いるのですが、それがだんだん厳しくなってきているのです。

    「もはや執筆活動が成り立たないと嘆く声が著作者の間であがっている」と書か

    れています。作家の生活が苦しくなっているのです。

       エンターテイメント系小説が問題になるのは、著者の多くが「専業の著作者」

    (専業作家)で、「多くは本が売れなければ収入がない」からです。本が売れな

    くなると、作家も執筆に専念できなくなり、書ける作品の数が減ることになりま

    す。作家を断念する人も出てくるかも知れません。

       作家は、どこかから給料をもらっているわけではありません。原稿料と印税が

    主な収入です。本の売り上げが減れば、その分収入が減ります。このため、大学

    教員等の兼業作家の方や文芸出版社以外の出版社は除いて考える必要があります。

       人気のある本は沢山売れているのだから、問題ないのでは、という意見もある

    と思います。1点単位で見ると、そう見えるのですが、出版社では「話題の本で

    採算を取り、次の多様な出版につなげ」ています。つまり、時々よく売れる本が

    出るので、それ以外の本が出版できるのです。

     人気のある本の売上げが減ると、それ以外のあまり売れない本が出版しにくく

    なります。文芸書では、新進作家の本や純文学が、文芸書以外では、学術書や専

    門書等が出版しにくくなります。

     「エンターテイメント系小説」は「書店や文芸出版社にとって」「経営の柱に

    なっているものばかり」なのです。

     

    〇図書館関係者の発言をどう考えたらよいのでしょうか

     

     要望書では、図書館関係者の声として両方の立場の意見が紹介されています

    (注 1)。「本が売れないこと、書店の衰退は、図書館や複本のせいではない」

    という意見と「経済的に余裕のある人は本を買うべき。図書館の役割は経済的弱

    者へも知る権利を保証すること」「ベストセラーの複本には気をつかう。作家・

    作品を守ることも図書館の役目」という意見があります。

       「本が売れないこと、書店の衰退は、図書館や複本のせいではない」という意

    見はどう考えたらよいのでしょうか。本の販売不振には、情報のデジタル化、新

    古書店等の様々な原因があること、書店の減少にも多くの理由があることは作家

    や出版社も指摘しています。誰も図書館だけのせいだとは言っていません。様々

    な要因がある中で、出版関係者は「本に愛情のある図書館には自制して頂きたい」

    (注 2)、「図書館だけには味方でいてほしい」(注 3)と要望しているのです。

    図書館はこのような要望にどう答えるのでしょうか。

     繰り返しますが、要望書で論じているのは「エンターテイメント系小説」であ

    り、「本・書籍一般」ではありません。「エンターテイメント系小説」について

    論じる必要があります。

       私は次のように考えています。知識を得るための本なら、図書館で借りた本を

    買うことはかなりあると思います。しかし、「推理小説」「エンターテイメント

    系小説」の場合は、読んで、ストーリーがわかれば満足することが多く、図書館

    で借りた本を買うことは相対的に少なくなると思います。したがって、「エンタ

    ーテイメント系小説」に関しては、図書館の貸出が本の売り上げに影響しないと

    は言えないと思います。

       一部の図書館関係者は、この問題について意見を述べていますが、核心である

    「推理小説」「エンターテイメント系小説」については意見を述べていないと思

    います。「推理小説」「エンターテイメント系小説」について意見を述べて欲し

    いと思います。

       何ごとも、社会に対する影響には、プラスもあれば、マイナスもあるのが普通

    であり、マイナスの影響が極めて少ないという意見は不自然です。

       図書館の予約サービスの利用者は、図書館で借りられるから読むのであって、

    自分では買わないという意見もあります。しかし、それは、図書館職員の推測に

    よる意見で、利用者の意見ではありません。貸出利用者のうちのごく一部の人

    が買うだけでも、売上げは増えます。

     また、「寄贈を呼びかける」ことは、複本の購入とは次元の異なる重大な問題

    です。これに対して、図書館関係者は、一部の人を除いて、ほとんど意見を述べ

    ていませんが、明確な意見を述べるべきです(この問題については別に論じたい

    と思います)。

     

    〇図書館サービスとは何なのでしょうか

     

       要望書では、ある図書館長の「文庫本、複本は原則として購入しない。寄贈も

    求めない」「地元の書店に影響を与えたくないから、予約の順番を待てない方は

    書店で本を買ってもらいたいのです。図書館の本も地元の書店で買います」とい

    う意見が紹介されています(注 4)。このように、作家、出版社、書店の立場を

    配慮している図書館もあります。

     図書館の在り方として、「これからの図書館像〜地域を支える情報拠点をめざ

    して〜(報告)」(2006年3月)が紹介されています(注5)。「貸出やリクエ

    ストサービスのみを重視せず、図書館法で掲げられている調査研究への支援やレ

    ファレンスサービス、時事情報の提供等を行うこと」が提言されています。これ

    らのサービスへの取り組みはどうなっているのでしょうか。エンターテイメント

    系小説の提供とこれらのサービスの比重はどう考えるべきなのでしょうか。

     

    〇文芸書小委員会からの「お願い」

     

     最後に、各公共図書館に対する、次のようなお願いが書かれています。「出版

    界からの声と住民の要望とのバランスに配慮され、文芸書・文庫本の購入や寄贈

    に、格段のご配慮をいただき、出版文化の継続発展にご助力いただきますようお

    願い申し上げます」

     出版界の声と住民の要望との「バランス」という表現に注目したいと思います。

    住民の要望を否定しているわけではありません。バランスをもう少し変えて欲し

    いという要望です。住民の要望も大事ですが、出版界の声も聞いて欲しいという

    要望です。

     各図書館では、この「要望書」について話し合ったのでしょうか。次は、図書

    館関係者の人々、あるいは、各図書館の人々がこの要望書に答える番だと思いま

    す。両者が冷静にとことん話し合うことが期待されていると思います。

     以上で、要望書を読み終えたいと思います。

     

    〇図書館職員の皆さんへ

     

     図書館職員の皆さんは、「図書館法」や「これからの図書館像」を読んでいま

    すか。「調査研究への支援やレファレンスサービス、時事情報の提供等」は、図 
    書館法のどの条文かわかりますか?条文が思い浮かびますか?

     「図書館法」や「これからの図書館像」を忘れた人、まだ読んでいない人は、

    これを機会に読み直して、勉強しましょう。読んだ人は、それをどう生かしたら

    よいか、職場で話し合いましょう。

     「これからの図書館像」が、教育委員会事務局や地方自治体の企画担当者に知

    られていない場合は、図書館から資料を届けて読んでもらいましょう。

     その上で、公共図書館と出版界、特に、文芸書、エンターテイメント系小説の

    著者や出版社との関係をどう考えたらよいのかを改めて考えてみるべきだと思い

    ます。

     既に日本ではノンフィクション作家が成り立ちにくくなっています。次に、エ

    ンターテイメント系小説の専業作家が成り立たなくなったら、エンターテイメン

    ト系小説が出版されなくなったら、読書、出版、図書館はどうなるのでしょうか。

     

    1)日本書籍出版協会図書館委員会編『2015年「図書館と出版」を考える:新

      たな協働に向けて:報告集』,2016.2,74p.

             (http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/toshokantoshuppanhoukoku.pdf)

    2)石井昂「図書館の“錦の御旗”が出版社を潰す」『新潮45』34(2),2015.2,p.

      39.

    3)石井昂「文芸出版社と図書館」『文学界』69(4),2015.4,p.169.

    4)高野一枝「東京国際ブックフェア2015 図書館・出版シンポジウム」「図

      書館つれづれ」第16回、2015年9月

      http://www.nec-nexs.com/supple/autonomy/column/takano/column016.html

    5)これからの図書館の在り方検討協力者会議「これからの図書館像〜地域を支

      える情報拠点をめざして〜(報告)」 

        (http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286794/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm)