〇 根本彰氏の複本・公貸権研究の概要(未定稿)

2016.06.20 Monday

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    〇 根本彰氏の複本・公貸権研究の概要(未定稿)

     

                                                                 2016. 6.20 薬袋秀樹

     

      根本彰氏(当時東京大学教育学部教授、現慶応大学文学部教授)は、1990年代末から、複本

    ・公貸権問題に取り組み、優れた研究を発表しているが、関係者によって、あまり参照されて

    いない印象がある。筆者は、この 2点を読むだけで、いくつかの問題が解決に向かうと考えて

    いる。ぜひ原著を読んでいただきたい。ここでは、筆者なりに研究の概要を紹介する。

      筆者の学会発表「出版関係者による複本削減等の要望に関する図書館関係者の議論の方法」

    http://hdl.handle.net/2241/00142026) も、本来は根本氏の研究のレビューから始めるべ

    きであったが、スペースの制約からやむなく省略させていただいた。下記はそれを補うもので

    あり、上記の資料と合わせてお読みいただければ、幸いである。

     

    (1)『情報基盤としての図書館』(2002.4)

       「第 2章 公共図書館とは何か」の「 2 公共図書館の公共性とは」で、「ベストセラー

    と図書館」「出版市場と図書館サービス」「諸外国との比較」の項目について論じている。

     

    ・林望氏の提言について

      林望の提言は、ベストセラー提供に対する批判を除けば、図書館と図書館員の社会における

    位置づけを正当に評価しており、まっとうな議論である。教養書や学術書の幅広い提供の主張

    には賛成である。複本はもっと少なくてよい。図書館は、ある部分で市場と重複しながら、公

    共的なサービスを志向する。

      ただし、ベストセラーに関する逸失利益は著者の計算の数分の一と考えるべきである。多数

    の複本を提供しているのは都市部の図書館に限られ、借りられた本の貸出分はすべて逸失利益

    とは考えられないためである。

     

    ・図書館の市場占有率について

      いわゆる図書館ルートによる市場占有率はほぼ 2.5%であるが、これは、雑誌も含めた総販

    売額の比較であり、学校図書館と専門図書館が除かれている。書籍だけに限定して、学校図書

    館と専門図書館を補うと、7.3%で、米国の 11.4%と比べて、決して低い数字ではない。日本

    の図書館は、数は少なくても、1館当たりの規模はそこそこ大きいためと考えられる。予想以

    上に日本の図書館の市場規模は大きいが、その後の数年で、このシェアは低下していると思わ

    れる。

     

    ・諸外国との比較について

     わが国の貸出はまだ少ないという考え方があるが、欧米の比較対象は大体北欧・アングロサ

    クソン系の国である。欧米の他の国の公共図書館の整備状況は日本と大差ない。日本の貸出冊

    数はフランスよりも多く、ドイツと同じ水準にある。国民 1人当たり5冊を超えたときに、著

    作権者団体から問題提起が起こる可能性がある。

     

    (2)『続・情報基盤としての図書館』(2004.2)

     「第 1章 ベストセラー提供と公貸権について考える」で、ベストセラー提供と公貸権問題

    の経緯、2002年における議論、ベストセラー提供の現状(調査データの分析)、貸出の減衰モ

    デル、貸出と販売のシミュレーション、図書館による出版物購入の効果、公貸権に関する議論

    と導入の問題点、諸外国における公貸権の実施状況、公貸権制度の是非、「公立図書館貸出実

    態調査」(2003年)の結果の10項目について論じている。

      特徴は、出版11社の会の調査結果をもとに、貸出の減衰モデル、貸出と販売のシミュレーシ

    ョン、図書館による出版物購入の効果について検討していることである。

     国民当たりの貸出点数が 4冊台で、公貸権問題が起きた背景について述べ、2002年に行われ

    た3つのシンポジウムについて報告している。また、調査データの分析から、専業作家、貸出

    の許容範囲、「ベストセラーよりも下位の図書」の問題、貸出における文芸書の多さ等を指摘

    し、「貸出が販売に多少の影響を与えていることは否定できないということもできる」と述べ

    て、次のことを提言している。

    ・「図書館の資料提供が市場に大きな影響を与えるとすれば図書館関係者の自主的な努力によ

        ってそうではない方向に軌道修正すべきである」

    ・「図書館は一定の範囲内に複本数を抑える努力をすべき」である。

    ・図書館は「市場とは異なった構造の図書館コレクションをつくること」が必要である。

    ・「現在の貸出重視の方針がこのまま維持されるなら、公貸権制度の導入を真剣に考えるべ

      き」である。

      公貸権導入の効果として、次の 2点を挙げている。―佝濃埔譴鮖戮┐襪發Π譴弔寮度であ

    る図書館の存在を法的に認知することになること。⊃渊餞曚斑作者や出版関係者との連携を

    強めることになること。

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