〇 司書資格取得科目「図書館情報技術論」がめざしたもの

2017.04.12 Wednesday

0

    〇 司書資格取得科目「図書館情報技術論」がめざしたもの

     

                                   2017. 4.12 薬袋秀樹                         
    

     

    1.「図書館情報技術論」に対するある評価

     

     2009年4月、いわゆる司書科目(正しくは「司書資格取得のために大学において履修すべき

    図書館に関する科目」)が制定されました。この中に「図書館情報技術論」という科目があり

    ます。

     

     2016年3月に出版されたある本では、文部科学省の社会教育課が作成した「改正司書養成科

    目に関するQ&A」を引用して、「図書館業務に必要な、ネットワークにかかわるサービスに

    携わる際の前提となる最低限の用語や概念、ウェブページの構成・評価、個人情報の流出やウ

    ェブサイトの改ざんを防ぐための最低限の必要な知識等」を教えるに過ぎず、現在の図書館を

    取り巻く情報技術環境を踏まえたものではないと述べています。

     

     上記の記述には誤解があると思いますので、報告の作成に携わった者として、説明したいと

    思います。なお、この記事は、筆者個人の考えによるもので、責任は筆者にあります。

     

     

    2.「科目一覧」の内容

     

     「Q&A」では、「・・・必要な知識等等が考えられます」と述べており、内容を例示して

    います。これらの科目の制定は、これからの図書館の在り方検討協力者会議(主査:薬袋秀樹

    筑波大学教授)『司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方

    について(報告)』( 2009.2,72p.)を踏まえて行われています。

     

     報告の中に、「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目一覧〔13

    科目24単位〕」という科目内容の一覧表が掲載されています。「Q&A」も、これを参照する

    ことを求めています。

     

     「図書館情報技術論」の内容は下記のとおりです。

        

      図書館情報技術論 2単位

     

      図書館業務に必要な基礎的な情報技術を修得するために、コンピュータ等の基礎、図書館業

     務システム、データベース、検索エンジン、電子資料、コンピュータシステム等について解説

     し、必要に応じて演習を行う。

     

      1)コンピュータとネットワークの基礎

      2)情報技術と社会

      3)図書館における情報技術活用の現状

      4)図書館業務システムの仕組み(ホームページによる情報の発信を含む)

      5)データベースの仕組み

      6)検索エンジンの仕組み

      7)電子資料の管理技術

      8)コンピューターシステムの管理(ネットワークセキュリティ、ソフト

        ウェア及びデータ管理を含む)

      9)デジタルアーカイブ

      10)最新の情報技術と図書館

     

     「Q&A」の内容は、ごく一部の例示であり、報告では、豊富な内容が示されていることがおわかりいただけると思います。 

     

     

    3.科目内容の説明

     

      科目内容の説明を若干補足します。

     

     「1)コンピュータとネットワークの基礎」で、「基礎」(基本的な概念と用語を含む)を

    説明します。

     

     「2)情報技術と社会」で、現在の社会と情報技術のかかわり全般(法規等の基本も含む)

    を論じ、「社会」の視点から「情報技術」を位置づけます。

     

     「3)図書館における情報技術活用の現状」で、図書館における情報技術活用の全体像を論
    じます。最新の技術とその応用もここで取り上げます。

     

     その上で、以下の各論を取り上げます。

     最後に「10. 最新の情報技術と図書館」の項目を設けてあります。これは、どんなに新しい

    項目を設けても、必ず技術の変化に追い越されますので、それぞれの時点での「最新の技術」

    を詳しく学べるように配慮したものです。これは筆者が提案しました。

     

     全体で、「現在の図書館を取り巻く情報技術環境」の全体を捉えられるように、視野が狭く

    ならないように配慮しています。

     

     

    4.「図書館情報技術論」と電子図書館サービス

     

      「図書館情報技術論」の新設は以前から考えていました。その理由は、司書の皆さんに情報

    技術に関する確実な知識を持って欲しかったこと、その知識をまとめた教科書が欲しかったこ

    との 2点です。

     

     協力者会議の委員の皆さんも賛成意見だったと思います。当然、現職の司書の皆さんにこの

    科目を勉強してもらうことも考えていました。

     

       念のために、図書館情報学の中でも、情報学(コンピュータ科学ではありません)の専門家

    の先生に意見を聞きました。私の理解と記憶では次のような内容でした。

     

        このような「情報技術」専門の科目を設ける考え方は古い考え方であり、賛成できない。

       むしろ、多数の科目にわたって「電子図書館サービス」が行われているのであるから、

      「電子図書館サービス」という概念を設定して、その観点から捉えるべきであり、「電子図

       書館サービス」を含む各科目でそれぞれ情報技術を取り上げるべきである。

     

       かなり厳しいご意見でした。私もなるほどと思い、しばらく考えました。その結果、このご

    意見は、私が理解した限りでは、理論的には適切な意見ですが、現実の図書館情報学教育や司

    書課程の状況を考えると、もう少し実践的な配慮が必要ではないかと考えました。

     

       それは、すべての教員が電子図書館サービスを詳しく論じることができるとは限らないから

    です。したがって、科目によって、電子図書館サービスを取り上げる程度に差ができます。ま

    た、各科目で取り上げる「電子図書館サービス」の内容の原理・基礎・基本を学ぶ科目も必要

    になります。

     

      そこで、せっかくのご意見でしたが、それを理解した上で、「図書館情報技術論」を設ける

    ことにしました。この科目には、上記のような期待が込められています。

     

     

    5.教育行政のメカニズムと司書養成

     

     ところで、司書の養成(図書館情報学教育の一部)については、図書館法では、資格の要件

    や単位数の範囲を中心に最も基本的な事項を定め、各科目の名称や単位数等は、図書館法施行

    規則(文部科学省令)で定めています。

     

     省令の制定や改正については、文部科学省の局長名で各都道府県教育委員会等に通知されま

    す。したがって、省令の内容を十分理解するには、この通知を参照する必要があります。

     

     また、省令の制定ないし改正の内容については、文部科学省の協力者会議等で検討され、報

    告が作成されることが多いと思われます。省令の内容を十分理解するには、この報告も参照す

    る必要があります。

     

     公共図書館や司書について考えるには、このような国の教育行政のメカニズムの知識が必要

    であることを理解しておく必要があります。この知識がないと、基本的な事項を誤解する恐れ

    があります。

    コメント
    コメントする