「ユネスコ公共図書館宣言 1994年」の意義

2017.04.05 Wednesday

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    ○ 「ユネスコ公共図書館宣言 1994年」の意義
                                   

                                                                   2017. 4.5 薬袋秀樹
     
      公共図書館に関する文書のうちで、公共図書館の理念を最も的確に示しているのは、「ユネ

    スコ公共図書館宣言  1994年」だと思います。国際的な宣言のため、なじみが薄く、文章も翻

    訳であるため、図書館職員にはあまり読まれていないようですが、最も重要な文書で、図書館

    職員が最初に読むべき文献のひとつだと思います。なお、最初の4つの段落を「前文」と呼ぶ

    ことにします。
     

    1.公共図書館の基本的性格と目的

     

     公共図書館の基本的性格と目的について、次の3点が定められています。

     

    |楼茲両霾鵐札鵐拭次福峺共図書館」の第1段落)
      この宣言の特徴は、公共図書館の基本的性格を明確に定めていることです。「公共図書館は、

    その利用者があらゆる種類の知識と情報をたやすく入手できるようにする、地域の情報センタ

    ーである」「地域において知識を得る窓口である」と述べています。
      そして、公共図書館が提供するものとして、「知識」「知識と情報」「情報サービス」「情

    報提供」を挙げています。これは、従来提供してきた「図書館資料」の本質が「知識と情報」

    であることを示すと共に、情報サービスの意義を示しています。
     
    個人と社会集団に対するサービス(「前文」の第2段落)
      次に、図書館サービスの目的を明確に示しています。「公共図書館は、個人および社会集団

    の生涯学習、独自の意思決定および文化的発展のための基本的条件を提供する」と述べていま

    す。この特徴は、サービスの対象として、「個人」だけでなく、「社会集団」を挙げているこ

    とです。「社会集団」を対象に加えることによって、広く社会や地域社会の全体を対象とする

    ことを示しています。
     
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      サービスの目的については、「生涯学習」だけでなく、「意思決定」を挙げています。「意

    思決定」とは、私たちが決定しなければならないあることについて、検討し、判断し、結論を

    出すことです。決定しなければならないことは「問題」「課題」です。「意思決定のための基

    本的条件を提供すること」は問題解決を支援することです。
      「個人及び社会集団の生涯学習、独自の意思決定」は、学習だけが目的ではなく、学習だけ

    に終わらず、その成果を活用して、意思決定、問題解決を行うことを示しています。逆に言え

    ば、意思決定には学習が必要であることも示しています。学習だけで終わらずに実践すること

    が重要であることを示しています。
     

    2.社会の在り方と図書館(「前文」の第1段落)

     

     もうひとつの特徴は、公共図書館が存在する前提として、「社会の在り方」が先にあり、自

    由で民主的な社会が想定されていることです。
     「前文」では、次のように述べています。
                                        
          社会と個人の自由、繁栄および発展は人間にとっての基本的価値である。このことは、

      十分に情報を得ている市民が、その民主的権利を行使し、社会において積極的な役割を果

      たす能力によって、はじめて達成される。建設的に参加して民主主義を発展させることは、

      十分な教育が受けられ、知識、思想、文化および情報に自由かつ無制限に接し得ることに

      かかっている。
       (中略)
          この宣言は、公共図書館が教育、文化、情報の活力であり、男女の心の中に平和と精神

      的な幸福を育成するための必須の機関である、というユネスコの信念を表明するものであ

      る。
     
      私は、この文章は、公共図書館の存在の前提として、あるべき社会像が存在し、公共図書館

    はそれを実現するための手段であることを示していると思います。あるべき社会とは、「社会

    と個人」が「自由」で、「繁栄」「発展」する「平和」な社会です。

      そのためには、市民が「民主的権利を行使し、社会において積極的な役割を果た」し、「建

    設的に参加して民主主義を発展させる」ことが必要で、それが可能である必要があります。そ

    して、市民はそれに必要な“十分な情報”を得る必要があります。
      「個人および社会集団の生涯学習,独自の意思決定および文化的発展のための基本的条件を

    提供する」という公共図書館の使命はここから生じていると思います。
     
      社会よりも図書館が先に存在するのではなく、また、図書館だけがよければよいのではなく、

    よい社会、民主的な社会、繁栄し発展する社会を作ることが目的であり、公共図書館の役割は

    それを支えることであることを指摘していると考えています。

     

    3.公共図書館の使命(12項目)(「公共図書館の使命」)

     

     「公共図書館の使命」の項目では、「情報・識字・教育および文化に関連した以下の基本的
    使命を公共図書館サービスの核にしなければならない」と述べて、12項目を挙げています。や
    や長いため、修飾語を除き、表現を簡略化して、要約してみました。詳しくは「宣言」をご覧
    ください。
    
      1.子どもの読書習慣を育成・強化する。 
      2.正規の教育,個人的・自主的教育を支援する。 
      3.個人の創造的発展の機会を提供する。
      4.青少年の想像力と創造性に刺激を与える。                                        
    
      5.文化遺産、芸術、科学の業績・イノベーションの理解を促進する。                                       
    
      6.公演芸術の文化的表現に接する機会を提供する。                                                           
    
      7.異文化間の交流と多様な文化の存立を支援する。                                                 
    
      8.口述による伝承を援助する。
      9.あらゆる種類の地域情報を提供する。                                                                 
    
      10.地域の企業・協会・利益団体に情報サービスを行う。                                                    
    
      11.情報検索,コンピュータ活用技能の発達を促す。

      12.すべての年齢の人々のための識字活動を援助する。
     
     これには、次のような特徴があります。
      第一に、12項目が挙げられています。日本の公共図書館関係文献では、1、2、4、9等が

    心で、多くても6項目位でしょう(今後、調査したいと思います)。
      第二に、第1項目で、子どもの読書習慣の育成・強化、第2項目で、正規の教育、個人的・

    自主的教育の支援を挙げています。この2項目が中心で、読書習慣の育成と教育の支援を重視

    しています。
      第三に、第5〜7項目で、文化遺産、芸術、科学の業績、公演芸術、異文化交流等の意義を

    示しています。広く社会に目を向け、社会における様々な知的な活動の意義をとらえていま

    す。
     第四に、第10項目で、地域の企業・協会・利益団体に対する情報サービスを挙げています。
      以上のように、広い範囲にわたって、12項目を挙げている点に注目するべきだと思います

     

    4.公共図書館の目的と知的自由(「公共図書館」の第4項目)

     

     「前文」では、公共図書館の目的を示し、「公共図書館」の項目で、公共図書館の基本的性

    格を規定し、「公共図書館の使命」で、12項目の使命を示しています。

     「公共図書館」の項目の最後に「蔵書及びサービスは、いかなる種類の思想的、政治的、あ

    るいは宗教的な検閲にも、また商業的な圧力にも屈してはならない」という規定があります。

    これは、日本の「図書館の自由に関する宣言」の内容と概ね一致しています。

     以上のように、この宣言では、公共図書館の目的、基本的性格を規定し、それを実現する上

    で「図書館の自由」の確保が不可欠であることを述べ、次に、公共図書館の使命を詳しく規定

    しています。

     日本では、「公共図書館の目的、基本的性格、使命」は、社会教育法、図書館法、望ましい

    基準等で定められていますが、「図書館の自由に関する宣言」と比べて、きわめて簡単な規定

    であり、解説も非常に簡単で、あまり議論されていません。他方、「図書館の自由に関する宣

    言」はきわめて詳細な規定からなり、詳しく解説されて、非常によく議論されています。

     図書館の運営やサービスについて論じる場合、まず「公共図書館の目的、基本的性格、使命」

    を論じ、その上で、「図書館の自由に関する宣言」を論じるべきだと思います。「図書館の自

    由に関する宣言」から議論を始めると、また、特定のサービスと「図書館の自由に関する宣言」

    を結びつけると、「公共図書館の目的」が不明確になる傾向があると思います。

     


     

                      

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    2017.08.17 Thursday

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